現代アートの次へ
一般にマルセル・デュシャンの「泉」が現代アートの起源と言われている。デュシャンは便器に泉というタイトルをつけ、機能を剥奪し、あたらしい思考を与えた。このように思考から価値をあたえるというのはまさに先鋭的であった。
しかし、振り返ってみると、「現代」の我々は100年前のデュシャンから未だに抜け出せずにいる。様々な思考がなされ、技術が進化した現代における「現代アート」を考える。
Wikimedia Commonsより引用
AIの時代におけるアートとは
しかし、AIというひとではないインテリジェンスの可能性が示されている現代においてもそれはつづくのであろうか。
我々はそのような時代のさきがけとなるべく、AIによるアートの創造を手がけた。
AI Mural
我々が作り出すAIが、AIによるアートの起原となるためには、壁画から学習を始めるべきではないか。そのような観点で作られている。
AIには、2万年前にクロマニョン人によって描かれた壁画を学習させた。
クロマニョン人達が自らのテリトリーの中で壁画の題材を選びだしたように、AIもまた描き出すべき図像を選択する能力を有する。
壁画に描かれていたものをアートという視点で解釈をおこなったとき、表面的には馬や牛といったものが描かれていたが、これらはその時代の富や欲望の対象であったといえる。
ヒトが大自然の中から動物をモチーフとして描き記したように、AIはインターネットを通して見た社会の中から描くべき対象を選び出す。
AIはリアルタイムにインターネット上からえた大量の画像を通して社会を俯瞰し、その時点において最も価値が高いと判断したものを、自らのロボットアームという身体性の限界の中で壁画としてその対象を描き残す。
こうして描かれた絵を壁に掲げることで、ラスコーの壁画ならぬ六本木の壁画として作品が完成する。
Media Ambtion Tokyo
日本最大となるメディアアートの祭典、Media Ambition Tokyo 2019 (以下MAT)六本木ヒルズ54階において、展示を行った。本作品は処女作にも関わらず、ラジオ、テレビなどに取り上げられMATの中でも一番問い合わせが多い作品となった。
Direction -
三浦 亜美
株式会社ima
声楽専攻からバックパッカーを経て、複数の会社を経営。その後、ベンチャーキャピタルに籍を置き、新しい価値を生む企業への投資とサポートを行う。伝統産業とビジネス、工学を融合した”文化工学”を提唱し、株式会社ima(あいま)を2013年に立ち上る。様々な伝統産業の継承をサポートすべく事業を行う。とくに日本酒業界においては世界基準の乾杯酒となる新たなカテゴリーを管理する協会の設立・運営や、杜氏の匠の技をAIでサポートするプロジェクトなどを行っている。創造分野へのAIの進出を見出し、本プロジェクトを提唱。
また、株式会社imaとして本プロジェクトのスポンサードも行っている。
Context / Design -
板坂 諭
株式会社the design labo
2012年に株式会社the design laboを設立し、建築設計、プロダクトデザイン、アート活動まで幅広い分野で創作活動を行う。 個人邸や商業建築設計を主軸としながら、海外メゾンなどで製品デザインを担当。NYのギャラリーやアートバーゼルなどでアート作品を発表し、幾つかの作品が美術館のコレクションに加えられるなど、エリアやジャンルを越えた活動を行っている。
Sponsor - 株式会社ima
Photo - 久保田 育男
Movie - 岩田 安史 / ジョニーヒロタ
あとがき
このとき、クリエイティブな仕事こそがヒトに残るという観点で議論されることが多いですが、我々のこの作品では、逆にヒトこそがAIに使役されて単純労働に従事させられるという未来を表現しています。
この作品は絵を壁に掲げることによって完成となります。
絵を描くというクリエイティブな仕事をAIが行い、ネジを回して壁に絵を掲げる単純労働をヒトが行います。
ヒトはAIが絵を描き終わるのをひたすらに待ち、AIのじゃまにならないように手早く絵を描く板を交換しなければなりません。
しかしながらこのとき価値の高いものを描くように学習したAIは容易にヒトの著作権や肖像権を侵害してきました。
我々は、具体的に何を書くべきであるかをAIには教えていません。
AIが社会に進出してきたときに初めに起こることは、既存の枠組みで語られるヒトの権利の侵害であるかもしれません。